Epilogo


あくびをしたミスタが
「マルチェリーノって男を知ってるか?」
「いや」

「こっから数本先の路地で車に轢かれて死んでたんだが、どうやらそいつはパッショーネの幹部だったって噂だぜ」

「」
アバッキオは、ドナートと共同出資していた男だと
「禁じ手の麻薬に手を出してたらしい。数日前に幹部のクラブが爆発したって話があったじゃねーか……あれ、お前が使われてる男だったか?」
「ああ、それで?」
「経営してた男が麻薬を所持してたってんで、入手先を辿ってたらマルチェリーノに行き着いたんだとよ」

「話が出来すぎてやしねーか?」
「さァな。もっとスゲー話を聞いたことがあるからなァ……どうだ? 聞きたいだろ?」
「要らねぇよ」




棚が一つしかない、殺風景なオフィス。そこでブチャラティは仕事をしているが、これだけ物がないと何ができるのかさっぱり分からない。

「誕生日おめでとう、ブチャラティ」
ドアが開けられた。ナランチャとすれ違って視線が交わる。
「あっ聞いてくれよアバッキオ、俺また一週間ホァンのとこだってよ~~~~代わってくんない?」
「てめーの尻はてめーで拭けよ」
「毎日同じパンだしさぁ」
呟きながら去っていくナランチャの背を横目に見送って、ふと、先ほどのミスタの話題が浮かぶ。そして、港のホァンの意味深な笑み。ブチャラティしか分からない暗号の返事を、アバッキオは「完了した」とホァンに伝えた。餅茶にメモをどうやって入れたのか聞いた時、あの時、なんと言っていたか。
ポルポさんに聞いてごらん
そうか、とアバッキオは思った。今回のことは、全部ポルポの仕組んだことだったのか。もしマルチェリーノという幹部が、パッショーネの禁止している麻薬で秘密裏に利益を得ていたのなら、ボスが黙っているはずがない。あるいはボスが知らず、ポルポが先に突き止めて処断を仰いだのであれば、この件は必ずポルポへ一任されるだろう。そうすれば残ったマルチェリーノのシマは、功績のあったポルポへ何割かでも引き継がれる。麻薬の収益も含めてだ。
しかし、そんな時にスパイだと疑われかねないアバッキオをドナートの元へ送るのは、幾らドナートからケジメをつけさせると掛け合って来たのだとしても、危険すぎる賭けだ。
パオロとやらを処断するショックで、ドナートも恐らく気づいていないだろうが、これだけは不可解だった。
しかし、これでブチャラティが佐代の素性に拘っていたわけがわかった。ドナートかマルチェリーノの息のかかった人間かどうか、疑っていたのだろう。何せこんな都合のいいタイミングで、佐代がアバッキオに付きまとうようになったのだ。


「誕生日だったのか」
「ああ」

「命日は忘れちまうことが多いのに、どうしてかこの日にはいつも父のことを思い出す
思えばフーゴに言われるまで、アバッキオはブチャラティのことは何一つとして知らなかった。

「どんな思い出が?」
「何もない」

「今日のような、ごく普通の日だ」
普通の日ほど、幸せな日はない。アバッキオが顔を上げると、窓の外を眺める、穏やかなブチャラティの目が待っていた。

男に今一つだけ、聞きたいことがあった。
生きる苦しみから逃れたいと思い、あの倉庫で組織に入ることを決めた時からずっと、男に尋ねたいことがあった。
「もし組織に死ねと言われたら、あんたは死ぬのか」

「いくら組織でも、無意味に構成員を殺したりはしない。もし俺が殺されるってんなら、それはヘマをしたってことだ。どこかの段階でな」
「そうじゃあねぇ、俺が聞いてるのは、死ぬのか死なねぇのかってことだ」

「さぁな」

「物事は論理的には動いていかない。だが俺は生きる場所がなかったから、仕方なく組織に従ってるわけじゃあない。少なくとも、正義だと思ってここにいる」

「組織が正しければ、いつだって死ぬだろうさ」

お前の世界の正義とは、違うだろうがな。
そう言って分厚い封筒を投げ渡す。


「佐代という女が俺に食いかかってきたぞ」
「……何?」
「お前を心配していた」

「これをお前に渡すように頼まれた」
彼女は空港だ。ローマに発つと言っていた。それをお前に伝えてくれと

「惚れてるなら追いかけりゃいい」
「あ?」
「とろくさいお前でも、歩く足があるなら、走る足だってついてるんだろ?」
この男は、自分が何を言っているのか分かってるのだろうか。組織から抜ける手引でもしてくれるというのだろうか。

「お前にまだ渡していないものがある。何せ寝こけてたお前はポルポの『試験』を通過してなかったわけだからな……正式な構成員じゃあない」
「……俺が裏切らねぇ保証がどこにある」


「ドナートを嫌うな」

「あの男は根っからのギャングだ。生まれた時から幹部になることが決まってた。だからわからねぇのさ、人生をどこで間違えばここに存在するのかってことが……利口なお前と違ってな」
「あ……?」
「馬鹿にしてるわけじゃあない、わからねぇ奴のほうが多い。わからねぇ内に、ここに来ちまってるのさ」
──全てのことは、起こる前から起きている
「じゃあな」
それだけだった。その一言だけで、この男はアバッキオとの全てを終わらせようとしている。

つまり今までの
茶番だった
ポルポとドナートがアバッキオの誠意を確かめたのは、ブチャラティの思惑だ。
あの時倉庫で始末することも出来た。それを試験を受けさせ、失敗しああとも恐らく
試験というのも恐らく生きるか死ぬかの二択のものだと
チームで下働きとして置き、ドナートへ引きあわせた。
「」


心配する人間がいる。血のつながりもない、数度会っただけで夜通し語り合ったわけでもない、そんな人間でも

あなたは覚えてないかもしれませんが、
佐代
父にひどいことをしたと後悔していた
一年前
刺し殺そうとした。
「間違いは正せる。後悔を覚えている限り」(アバッキオ自身が女に投げかけた言葉だった)
(手紙)
佐代は確か、ソファーに座ってずっと俯いていた。
だから顔が記憶に残らなかったのだろう。思い出せなかったのだろう。

あの……
アバッキオが先輩に続いて出て行こうとすると、か細い声が引き止めた。蚊の鳴くような声だった。
お名前を……

アバッキオは迷いながらも、ゆっくりと向き直って、怯えている少女を安心させるように言った。
「アバッキオ、レオーネ・アバッキオと言う」
アバッキオさん……
少女はそれきり口を開かなかった。アザの残る腕を抱いて、最後まで俯いたままだった。

あなたのお陰で母も私も立ち直れました。
弁護士になるためにローマへ行きます。
「何かあったら、連絡をください。恩返しがしたいのです」
思い出す
佐代…そうだ、この女の名前だ
(警官になりたての一年前、一人の女性を助けていた。アバッキオにとってはなんでもないことだった。しかし、女にはこんなに変わっても覚えているほどに
出来事だったらしい)

俺のしたことと言えば、たった一杯のコーヒーを淹れただけだ。何時間も取調室にいるには間の持たない、たった、一杯の。

手紙
──
私は、コーヒーが苦手でした。子供っぽいとよく言われても、あの独特の味がとても好きにはなれなかった。それでも一人だけコーヒーが飲めないのが嫌で、い
つも自分から頼んでは無理に飲み干していました。そんな私のために、母は自分がコーヒーを淹れるときには、二人でミルクをたっぷり入れてくれていました。
あの時、コーヒーを淹れてくれたのはアバッキオさんだとお聞きしました。とても美味しかった。コーヒーなんて今までに何杯も飲んできたはずなのに、こんなことをしてくれたのは、母とあなただけでした。
たっぷりミルクの入った少し薄めのコーヒーが、私は忘れられなかった。あのミルクのおかげで、私は寂しい思いをせずにすみました。ずっと、死んでしまおうかと思っていたのを、あなたが留めてくれたんです。


死んだ同僚に、初めてコーヒーを入れた時のことを思い出した。エスプレッソが嫌いだった。アメリカーノは気に食わない。ミルクをたっぷり入れた。
それを、同僚は気に入ったと笑って飲んでいた。

──この街は嫌いです。でも、こんなに温かいコーヒーを淹れられる人が、悪人のはずはないと思いました。

俺に感謝なんざしないでくれ
俺なんぞに

佐代がここにいたならば、怒鳴ってでもまた壁に押し付けてでも、その口を止めてやるのに、その女はアバッキオが遮ってしまわないよう、手紙だけを残して行ってしまった。
俺にそんな価値はない、と思った。
佐代はアバッキオのことを知らない。成り行きで少女を助けた時のままのアバッキオを、ずっと思い描いているのだ。

佐代の笑顔が浮かんだ。初めて会った時、 室のソファーに小さく俯きながら座っていた少女からは、とても笑顔を思い浮かべることは出来なかった。その佐代が、今は惜しみもなく笑っている。
──だからどうしてもあなたが忘れられなかったんです。
それは佐代自身の力だ。他の同僚でも、誰でもない。それなのに、佐代はアバッキオのお陰だと言う。アバッキオは、自分自身の罪からいつまでも立ち直れないというのに。

「やめてくれ……」
アバッキオの口から、懇願が漏れた。握りしめてしまったせいで手紙はぐしゃぐしゃになっているのに、閉じることが出来ない。女の文字を目が追ってしまう。
俺は多分、もう落ちていたのだ──
悔しさと苛立ちの中に、女へ向ける諦めがあることにもうとっくに気づいていた。そこには、あったのだ。薄汚れた胸の中に、確かな甘い傷跡が。

同僚の顔が頭をよぎった。佐代の声を避けながら、エスプレッソの匂いに気づかぬふりをしながら、ずっと、目を背けてきたことだった。信じたくないことだったのだ。
思い出せない。あんたの顔が思い出せないんだ──
どんなに頭を振ってもぼやけた輪郭のまま、存在だけが頭に残って、少しも思い出すことが出来ない。誰が一番のクズだったのだろうか。ずっとこの事実から逃げたいあまりに、責任転嫁をしてきたんじゃないだろうか。
思わず上を向いて目を閉じた。そうしなければならなかった。じわりと目頭に迫るものがあったからだ。

後ろから石畳を打つ足音が登って来る。
フーゴがアバッキオを信頼した描写
(泣いているアバッキオに気づいて)
「ぼくの人生での失敗を教えましょうか?」
たったの15年で何言ってやがる、と思った。それよりさっさと立ち去れと言ってやりたかったが、今口を開いてしまえば喉を詰まらせたような声が出てしまうに違いなかった。
「後悔をしなかったことです」
敏い少年は、アバッキオの苛立ちを感じているだろうが、気にせずに言葉を紡いだ。
「教師を半殺しにして実家からも勘当されましたが、全く後悔はしなかった。つまらない人生だと思うこともありますが、それでもすぐに受け入れてしまう」
アバッキオ、とフーゴが名前を呼んだ。
「慰めているわけじゃあない。ただ少しあなたを……」
言葉を切った。
「羨ましく思う」
フーゴらしくなかった。ブチャラティのことも、自分のことも、どうしてこの少年はアバッキオに話すのか、分からなかった。だが、少し納得もしていた。ナランチャが少年を好くのは、こういうところのような気がしたからだ。
「……失せろ、蹴り倒すぞ」
震えを誤魔化すために這いずるような声を絞り出すと、音はしなかったが、背後でフーゴが笑ったような気配がした。
「今日はいい天気ですね。思わず空を見上げたくなる」
誰に言うでもなく呟いて、上を向いたままのアバッキオを通り過ぎると、フーゴは坂を黙々と登って行った。意外にもお節介が好きな男の、癖っ毛が跳ねる頭の中では、ブチャラティへ告げるためのアバッキオの遅刻の理由を、算段してやっているのかもしれなかった。

ミスタが入った時、哀れなやつだと思った。


組織でしか生きれないものもいる。
こういう場所がなければ居場所のないものもいる。


風を受けて、手紙がパタパタと揺れ動く。佐代の字は淀みなく綴られている。
笑って下さい、アバッキオさん。誰のためでもいいんです。私はそのために、恩を返したいんです。

記憶の片隅から、男の声がした。
——笑ったほうがいい
視界に映る少女は、ソファで俯いたままだった。
——君の親父さんは生きてる。そのコーヒーを飲んだら、笑ってみるといい。

——きっと、そうだな……泣くよかいいことが待ってる。
迷いながら、絞りだすように紡がれたその声は、アバッキオだった。聞き間違えもしない。紛れも無い自分自身の声だった。

アバッキオさんは責めませんでした。一言も、反省をするよう促すことさえしませんでした。
「君は十分わかっている」と。「十分知っている」と、甘いコーヒーと一緒にそれだけを。
その言葉は責められるよりもずっと、切なくて、あたたかくて、残酷で、私は初めて滝のように涙を流しました。その時にようやく、自分が深く後悔をしていたことに、気づいたのです。

バールで見せた佐代の屈託のない笑みが、頭をいっぱいに満たす。どんなにアバッキオが不機嫌にしようが、突き放そうが、悪態をついて見せても、佐代は変わらなかった。次の日には再び、何もなかったかのように朗らかな笑みでアバッキオの名を呼んだ。

*

「前にお前に言ったことだが」
賄賂を受け取り始めて数ヶ月が経った日、相棒はパトカーに乗り込むなり
「すまない、何のことだったか……」
「いいんだ、随分前のことだから……俺が一度も認められたことがないって話だ」

「ずっと、余計なことを言ったと後悔していた。入ったばかりのお前を落胆させてしまったんじゃないかと」
憧れて警官になったと聞いていたから

「……いや」
喉に何かが詰まるような気がした

「見てるものは見てるよ」
「そりゃあ」
アバッキオの脳裏に後ろ暗い光景が浮かんで、ムキになったのかもしれない。
「神のことか?」
茶化すように言うと、同僚は笑いながら「それもそうだが」と言って手を振った。
「聖書が神の存在を教えてくれたように、言葉にされないと俺達はわからない。でも言葉だけにすがれば、目の前にある真実を見逃してしまう。聖書を読んでも神は見えない。本から目を上げなければ、」

言葉がなければ俺たちは気づかないが、言葉のないところに真実がある。

「でもやっぱり言葉なんだ。迷った時、聖書は道を示すかもしれない。本当に助けがいる時、辛くてどうしようもなくなった時、俺達の正義は言葉になって返ってくる」
「聖書が神の存在を教えてくれたように、言葉にされないと俺達はわからない。でも言葉だけにすがれば、目の前にある真実を見逃してしまう。聖書を読んでも神は見えない。本から目を上げなければ」

言葉がなければ俺達は気づかないが、言葉のないところに真実がある。
沈黙の中に真実がある。同僚はそう言った。“正義”とは言わなかった。ただ“真実”とだけ告げた。
「俺たちはいつだって起こったことにしか対応できない。起きる前のことには大抵気づけてやれない」

「でも一つだけ、信じられることがある。そこに後悔があれば、それだけは真実だ」

「あの時、答えは出たのかって、聞いただろう?」
出世から外れた男が、アバッキオに言った。
「実は何が正しいのか全くわからない……だからいつも探しているよ。それが答えなのかもな」


「悪くない回答だろ?」
眩しいほどに、晴れるような笑顔で。

*

熱くなった目尻を誤魔化すように、アバッキオはまた目を細めた。路地から覗く狭い空は、青々と澄み渡っている。
皮肉な世の中だった。海と空のような境目がない。善と悪が混在して、誰にも正しい道がわからない。どこへ向かえばいいのかわからないまま、溺れるようにしてこの薄汚い路地を歩いている。
空を見たのは久しぶりだった。ギャングになると、天を見なくなる。金と罪の重みで、地面に吸い寄せられるように顔が俯いていく。ブチャラティでさえ、そうなのかもしれない。この世界に生きる限り、誰かの血を不幸を金に変える限り。
だが佐代の目線は、あの空であればいいとアバッキオは思った。決して陰った路地でも、雨とゴミに濡れる地面でもなければいい。

振り返った
が、栄光坂は教会の鐘の音に覆われて、空耳のような音は掻き消えた。眼下には、広くひしめき合うネアポリスの街と海岸線が、ただただ空に溶けるようにして
広がっているだけだ。
昨日の雨の名残だろうか。微かに湿った潮風がアバッキオの鼻を掠めた。それに乗って女の顔が背後に流れるようによぎる。胸を何かが撫でた。もぞもぞと胸の内で、こそばゆく動き始める。穂先でくすぐられるように、どうしようもなく胸が疼く。それだというのに、少しばかりの痛みが
伴った。
「クソッ……しぶてぇな」

もう戻ってくるんじゃねぇぞーー
アバッキオでは、佐代の笑顔を守れないことは分かっていた。
住所が記してある。丁寧に、一つ一つをびりびりと破いて、それから手を離した。
長い長い手紙の文面が、はらはらとネアポリスに舞っていく。秋の桜か南の雪か。

アバッキオさん、気づいてましたか?
最後にバールで会った時、どんな顔をしていたか、知っていましたか?

知ったことか。つまらねぇことはお前の方が、よく知ってるじゃねぇか。



好いた女は気づけば空より遠く、見下げていた男達は胸に情を隠していた。フーゴはもう、リストランテについている頃だろう。胸の疼きを押し込めてでも、やるべきことが残っていた。
いつもの扉を開ければ、フーゴは白々しくも、遅刻したアバッキオに皮肉でも言うかもしれない。まずは少年への礼として、言い返す文句を考えなければならなかった。
何て返してやろうか。
そんなことを考えているのが、少し楽しく思えていることに気づいた。航空チケットを破り捨てたと知っても、ブチャラティもまた、素知らぬ顔でいるのだろう。アバッキオも、礼を言うつもりはなかった。
残ることを選んだのは、雨音に掻き乱されたからでも、血だまりを見て怖気づいたからでもない。路地の影や、刑務所の中や、淀んだクラブの中に身をひそめて決めたわけでもない。
こればかりは、自分で選んだ道だ。アバッキオが、己の意思で。

飛行機は、ネアポリス空港からローマの方角へと、真っ直ぐ空を横断していく。
罪と贖罪のネアポリスの坂を見据えた。
長い坂だ。──と思った。とてつもなく長い坂だ。海と空の狭間の、光と影の間の、アバッキオのこれから行く道が延々と伸びている。しかし、ここを歩いて行かなければならない。立ち止まれないというのなら、ここしか歩く道はない。
いや、ここで生きてここで死ぬと、決めたのだ。たった今、アバッキオが決めたのだ。

いつ頃からか分からない。ふとぼんやりと霞んでいた頭に、どこからかカシャカシャと、ダイヤルの回るような音が断続的に聞こえてくる。
リストランテで待つ仲間へ、いつも通りの皮肉を、言ってやらねばならなかった。

佐代ーー
鐘の音の中に飛行機が彼方へ飛び去る気配を感じながら、背中を丸めて、いつもの坂道を踏み出すと、その音もいつしか、静かに坂の空気に溶けて行った。



|終
18/12/20 長編